女性活躍推進法とは?
女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)とは、2015年9月に成立し、2016年4月から施行された法律のことです。
以前から「男女雇用機会均等法」や「育児休業法」、「男女共同参画社会基本法」などの法律は存在していましたが、この法律ではさらに女性労働者が活躍できるように具体的な行動を起こすことで推進していこう、という趣旨の法律になります。
この法律ができた背景には、以下のような問題があるといわれています。
第一子出産を機に6割の女性が離職する
育児後に再就職する際はパート・アルバイトになる場合が多く、女性雇用者における非正規雇用者は56.6%と、6割近い
女性の管理職は1割程度と、国際的に見ても低い水準である
(引用:3分で分かる「女性活躍推進法」あなたの会社はどう変わる? | プレジデントオンライン | PRESIDENT Online)
しかし、実際には少子高齢化による労働力不足、それに伴う税収の低減が政府の切実な問題であり、そのために男女の雇用均等を推進せざるを得ないというのが実情のようです。
実際に、安倍首相(2017年3月現在)は演説で次のように述べています。
「いかにして日本は成長を図るのか。ここで成長の要因となり、成果ともなるのが、あらためて言うまでもなく、女性の力の活用にほかなりません」(著:国際情勢研究会『安倍総理国連演説全文』)
「いまだに活用されていない資源の最たるもの。それが女性の力ですから、日本は女性に輝く機会を与える場でなくてはなりません」(著:国際情勢研究会『安倍首相 ダボス会議基調講演全文』)
このように、思想や社会政策の問題ではなく、日本の経済成長のために、女性労働者が必要とされているのです。
労働者のメリット
この法律の趣旨は、「働きたい女性にとって働きやすい会社(産休が取りやすい、復帰しやすい)」にしていくというものですから、この趣旨が実現すれば、女性は今以上に働きやすく、また働き続けやすくなるでしょう。
また、「働く女性」というと正社員でバリバリのキャリアウーマンを連想してしまいがちですが、派遣社員や契約社員の女性も「働く女性」には違いありませんから、こういったあらゆる労働形態で働く女性がこのメリットを享受できるでしょう。
企業のメリット
女性労働者を雇い入れる企業のメリットとしては、まず市場のニーズへの対応力の向上です。
経済産業省の調査では、家計支出の約7割は女性に購買決定権があると示されています。(出典:成長戦略としての女性活躍の推進(経済産業省 経済社会政策室))
つまり、市場ニーズ≒女性顧客といっても過言ではなく、女性視点での企業活動がかなり有効であるといえるのです。
例えば、先述の経済産業省の調査で挙げられている事例としては、「日産自動車株式会社」が女性中心の商品開発により継続的にプロダクトイノベーションを実現し「ノート」を
開発し、連続販売台数1位を達成したものがあります。
その他のメリットとしては、企業イメージの向上があります。
昨今、長時間労働や過労死などが社会的問題として関心が高まっており、いわゆる「ブラック企業」としてネット上でネガティブキャンペーンが繰り返され、その影響を受けた求職者から避けられている傾向があります。さらには、そのマイナスイメージが企業の商品・サービスを利用するお客様にも浸透し、売り上げが落ちてしまうという危険性もあります。
このように、昨今は企業のイメージというのもかなり重要な要素となっています。
詳しくは後述しますが、特に「女性が働きやすい企業」と厚生労働省に認められれば、「えるぼしマーク」というものが公布されます。まだまだ認知度はさほど高くはありませんが、女性求職者にとってこのマークの存在は重要な要素になるでしょう。また、認定を受けていない企業であっても、女性の働きやすさを前面に打ち出せば、求職者の増加が見込めるのではないでしょうか。このように、企業イメージというのがだんだんと重要な立ち位置を占めてきているので、企業としては否が応でも女性活躍の推進を行う必要があるのではないでしょうか。
企業に求められること
企業にとっての女性活躍推進のメリットとその必要性については先述の通りですが、この女性活躍推進法で企業に求められていることとは何なのでしょうか。
厚生労働省では、以下のように定めています。
女性の活躍に関する状況の把握、改善すべき事情についての分析
・女性採用比率
・勤続年数男女差
・労働時間の状況
・女性管理職比率
上記の状況把握・分析を踏まえ、定量的目標や取組内容などを内容とする「事業主行動計画」の策定・公表等
・取組実施・目標達成は努力義務
女性の活躍に関する情報の公表(以下の項目のうち1つ以上)
・採用した労働者に占める女性労働者の割合
・採用における男女別の競争倍率又は採用における競争倍率の男女比(男性の倍率を1としたときの女性の倍率)
・労働者に占める女性労働者の割合
・男女の平均継続勤務年数の差異又は男女別の採用10年前後の継続雇用割合
・男女別の育児休業取得率
・一月当たりの労働者の平均残業時間
・雇用管理区分ごとの一月当たりの労働者の平均残業時間
・年次有給休暇の取得率
・係長級にある者に占める女性労働者の割合
・管理職に占める女性労働者の割合
・役員に占める女性の割合
・男女別の職種又は雇用形態の転換実績
・男女別の再雇用又は中途採用の実績
なお、従業員が300人以下の民間事業主については努力義務となっています。
また、行動計画の策定、策定した旨の届出を行った事業主のうち女性の活躍推進に関する状況等が優良な企業は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定(えるぼし認定)を取得することができます。
(上図:えるぼしマーク(左から順に3段階目・2段階目・1段階目))
えるぼし認定を受けるためには、以下の項目について基準をクリアしている必要があります。
1. 採用
男女別の採用における競争倍率(応募者数/採用者数)が同程度であること
2. 継続採用
「女性労働者の平均継続勤務年数÷男性労働者の平均継続勤務年数」が雇用管理区分ごとにそれぞれ0.7以上であること(期間の定めのない労働契約を締結している労働者に限る)
「10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された女性労働者の継続雇用割合」÷「10事業年度前及びその前後に採用された男性労働者の継続雇用割合」が雇用管理区分ごとにそれぞれ0.8以上であること(期間の定めのない労働契約を締結している労働者かつ新規学卒採用者等に限る)
3. 労働時間等の働き方
雇用管理区分ごとの労働者の法定時間外労働及び法定休日労働時間の合計時間数の平均が、直近の事業年度の各月ごとに全て45時間未満であること
4. 管理職比率
管理職に占める女性労働者の割合が別に定める産業ごとの平均値以上であること又は直近3事業年度の平均した「課長級より1つ下位の職階にある女性労働者のうち課長級に昇進した女性労働者の割合」÷直近3事業年度の平均した「課長級より1つ下位の職階にある男性労働者のうち課長級に昇進した男性労働者の割合」が0.8以上であること
5. 多彩なキャリアコース
直近の3事業年度に、以下について大企業については2項目以上(非正社員がいる場合は必ずAを含むこと)、中小企業については1項目以上の実績を有すること
A 女性の非正社員から正社員への転換(派遣労働者の雇入れ含む)
B 女性労働者のキャリアアップに資する雇用管理区分間の転換
C 過去に在籍した女性の正社員としての再雇用
D おおむね30歳以上の女性の正社員としての採用
なお、認定の段階の区分は、上記の5つの評価項目のうち
・5つの基準すべてを満たしている場合は「3段階目」
・3~4つの基準を満たしている場合は「2段階目」
・1~2つの基準を満たしている場合は「1段階目」
の「えるぼし認定」を受けることができます。
総括-今後の展望
「行動計画」の策定と公表が義務付けられ、厚生労働省によると、2016年12月31日現在、15,740社、99.8%とほぼ全ての企業がこれにすでに対応しています。つまり、ほとんどの民間企業が女性活躍の推進に乗り出しているということになります。
一方で、この女性活躍推進法の問題点もあります。
そのひとつに、「女性の管理職登用」があります。
2013年の総務省の調査によると、管理的職業従事者に占める女性の割合は11.2%であり、諸外国と比べてかなり低い水準となっています。これは是正していかなければならない問題ではありますが、その一方で「管理職になりたがらない女性」というのも一定数存在する現実があります。
というのも、現状の管理職にはワークライフバランスという概念が薄く、出産や子育て中の女性にとっては働きづらいという実情があるからです。
事実、女性管理職は男性管理職と比較して、未婚率や既婚者で子供がいない率が高くなっています。これは、管理職には男性と同じような働き方(=時間的に長く働けること)が求められていることの証左であるともいえるでしょう。
この問題を解決するためには、「管理職の在り方」という現場の概念を変えていかねばならず、女性活躍推進法だけでは難しく、時間も多くかかることでしょう。
しかし、この「管理職の問題」があまり影響しない雇用形態があります。
それは「派遣社員」のような有期契約の労働者です。
管理職として派遣される人材も一部で存在しますが、ほとんどはそうではない一般業務に就労する方が多いのではないでしょうか。
そもそも派遣社員を志す方は、できれば正社員がいいと思う一方で、出産や子育てで長時間働けないという理由の方も多くいらっしゃいます。
そういった派遣社員にとって、現状ではワークライフバランスが難しいとされる管理者の登用はあまり現実味がない話ですし、望むところでもありません。
一方で、女性活躍推進法によって得られるメリットは、正社員のみならず、派遣社員である女性にも享受されます。
よって、女性活躍推進法でまず最初にその恩恵を受け、働きやすくなるのは女性の派遣社員なのではないでしょうか。
現状、まだまだこの女性活躍推進法の認知や理解が広まりきっているとは言えず、受けられるメリットも制限されたものになっていますが、今後発展していくにしたがって派遣社員の働きやすさも最大に近づいていくものと思われます。
女性派遣社員を多く抱える派遣会社としては、この流れは来たるビジネスチャンスの兆候であるといえるのではないでしょうか。
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参考サイト
成長戦略としての女性活躍の推進│経済産業省経済産業政策局 経済社会政策室