目次
労働基準法とは?
労働基準法は、憲法25条と27条に基づき、労働者の権利を守るために制定された法律です。(第1条)
労働者と使用者(企業)は対等な立場であり、お互いに就業規則や労働契約を守る義務があります。(第2条)
労働基準法における労働者とは、職業の種類を問わず、事業(事務)所に使用され、賃金を支払われる者をいいます。(第9条)
労働基準法における賃金とは、賃金、給料、手当、賞与、その他の名称の如何を問わず、労働の対象として使用者(企業)が労働者に支払うすべてのものを指します。(第11条)
労働基準法の基本は以上の条文になります。以下では、第4条~第23条までの特に重要な条文をピックアップし、解説していきます。
なお、労働基準法の条文全体における本記事の位置づけは以下のようになっています。
第一章 総則
第二章 労働契約
第三章 賃金
第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
第五章 安全及び衛生
第六章 年少者
第六章の二 妊産婦等
第七章 技能者の養成
第八章 災害補償
第九章 就業規則
第十章 寄宿舎
第十一章 監督機関
第十二章 雑則
第十三章 罰則
附則
第4条 男女同一賃金の原則
使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。
「女性であること」というのは、その事業場において女性労働者の能率が悪いこと(建設業など)や、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者でないことを理由に、女性労働者に対して賃金に差別をつけることを違法としています。(昭二二・九・一三 発基一七号、平九・九・二五 基発六四八号)
この差別とは、不利に扱う場合のみならず、有利に取り扱う場合も含めます。
また、職務、能率、技能、年齢、勤続年数などによって、賃金に個人的差異があることは差別的扱いとはみなされません。(昭二二・九・一三 発基一七号、昭二五・一一・二二 婦発三一一号、昭六三・三・一・四 基発一五〇号、平九・九・二五 基発六四八号)
第5条 強制労働の禁止
憲法第18条では「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」と定められていますが、この趣旨を労働関係について具体化した条文になります。
また、「労働の強制」では必ずしも労働者が実際に労働をすることを必要とはせず、精神又は身体の自由を不当に拘束する手段を用いられた「労働契約の締結」も無効になります。つまり、強制するその行為自体が違法になります。
第6条 中間搾取(ピンハネ)の排除
この条文は、特に人材派遣業に関係する条文です。
中間搾取(ピンハネ)とは、使用者(企業)と労働者の間で発生する雇用契約に介入し、賃金の一部を搾取することです。(図1)
よく、「人材派遣は中間搾取ではないのか」という疑問を抱かれる方がおりますが、重要なポイントは、「【2017最新版】労働者派遣法徹底解説」をご覧ください。
第7条 公民権行使の保障
公民権の行使とは、選挙権・被選挙権の行使や、裁判訴訟などのことです。また、公の職務とは、議員や裁判員制度による裁判員などのことです。
なお、公民権の行使の際の給与の扱いについては、当事者の判断に委ねられています。(昭二二・一一・二七 基発三九九号)
第12条 平均賃金の定義
一 賃金が、労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
○2 前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。
○3 前二項に規定する期間中に、次の各号の一に該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。
一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
二 産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業した期間
三 使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 (平成三年法律第七十六号)第二条第一号 に規定する育児休業又は同条第二号 に規定する介護休業(同法第六十一条第三項 (同条第六項 及び第七項 において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第三十九条第八項において同じ。)をした期間
五 試みの使用期間
○4 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
○5 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
○6 雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。
○7 日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
○8 第一項乃至第六項によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。
平均賃金は、各種手当の計算に用いられるもので、各種手当などが発生した日以前の3か月に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その3か月の日数で割った金額を指します。
また、平均賃金には「最低保証額」が以下のように設けられています。
1. 日給制や時給制、歩合制や請負制による賃金の場合は、総額をその3か月間で労働した日数で割った金額の60%
2. 月給制と歩合制が併給されている場合などは、月給制の部分は3か月間の総日数、それ以外は3か月間で労働した日数で割った金額の60%の合計額
第14条 契約期間
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号において「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
○2 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。
○3 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
有期労働契約において、労働契約の期間は原則として3年を超えてはいけません。
有期労働契約には派遣社員や契約社員、パートやアルバイトが含まれます。
なお、派遣社員に関しては別途、労働者派遣法によって3年ルールが定められています。
※詳しくは「派遣法?職業安定法?派遣にまつわる法律をピンポイント解説!」をご覧ください。
第15条 労働条件の明示
○2 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
○3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働者を雇用・採用する場合は、賃金や労働時間といった労働条件を書面などで明示する必要があります。
書面に明示すべき事項として以下があげられます。(平一一・一・二九 基発四五号)
労働契約の期間に関する事項
就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
始業及び就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交代制業務の就業時転換に関する事項
退職に関する事項
なお、書面の様式の指定は特にありません。(平一一・一・二九 基発四五号)
第16条 賠償予定の禁止
労働契約の不履行(途中でやめる、会社に損害を与える)について、契約締結の時点で違約金や損害賠償額を予定し、あらかじめ決めておくことは禁止されています。
なお、労働者の責任で発生した損害についての賠償の請求はその都度で可能です。(昭二二・九・一三 発基一七号)
第19条 解雇制限
○2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
使用者(企業)は、以下の労働者をその期間中は解雇してはいけません。
1. 業務で負傷・疾病にかかり、療養のために休業する期間とその後30日間
2. 産前と産後の女性が第65条の規定によって休業する期間とその後30日間
ただし、第81条の規定による打切保障を支払う場合や、天災事変などで事業の継続が不可能な場合はその限りではありません。
※第65条については、「【2017年最新版】労働基準法ピンポイント解説 Part5」をご覧ください。
※第81条については「【2017年最新版】労働基準法ピンポイント解説 Part6」をご覧ください。
なお、後述の第20条に基づき30日前に解雇を予告した場合において、その解雇予告期間中に業務上で負傷・疾病にかかり休業している間は解雇することができません。ただし、その休業期間が長期にわたる場合は除きます。
第20条 解雇の予告
○2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
○3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
使用者(企業)は、労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。
30日前までに予告をしない場合、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。
第21条 解雇予告の適用除外
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
第20条に定められる解雇の予告をしなくてもいい場合は以下の通りです。
1. 日雇い労働者
1か月を超えて継続して雇用される場合は解雇予告が必要
2. 契約期間が2か月以内の労働者
当初の契約期間を超えて継続して雇用される場合は解雇予告が必要
3. 季節的な業務(冬季のスキー場での業務など)に4か月以内の期間で使用される労働者
当初の契約期間を超えて継続して雇用される場合は解雇予告が必要
4. 試用期間中の労働者
14日を超えて継続して雇用される場合は解雇予告が必要
第22条 退職時等の証明
○2 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
○3 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。
○4 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。
労働者が退職する際に証明書の交付(「使用期間」「業務の種類」「その業務における地位」「退職(解雇)理由」について)を請求した場合は、使用者(企業)は遅滞なく交付する義務があります。
また、解雇の予告をされた日から退職の日までの間に解雇理由証明書の交付を請求した場合は、使用者(企業)は遅滞なく交付する義務があります。
ただし、解雇の予告をされた日以降に、その解雇以外の理由で労働者が退職した場合は、解雇理由証明書の交付は必要ありません。
第23条 金品の返還
○2 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。
労働者が死亡した場合の権利者は相続人になります。
総括
本記事では、労働基準法第1条~第23条までを掲載・解説しました。
第23条以降の解説については、以下の記事をご覧ください。
「【2017年最新版】労働基準法ピンポイント解説 Part2」(第24条~第36条)
「【2017年最新版】労働基準法ピンポイント解説 Part3」(第37条~第38条)
「【2017年最新版】労働基準法ピンポイント解説 Part4」(第39条~第41条)
「【2017年最新版】労働基準法ピンポイント解説 Part5」(第56条~第68条)
「【2017年最新版】労働基準法ピンポイント解説 Part6」(第75条~第87条)
「【2017年最新版】労働基準法ピンポイント解説 Part7」(第89条~第93条)