【人材派遣・人材紹介】船井流マーケティングと人材ビジネスの事業拡大

船井流マーケティング×人材ビジネスの事業拡大の考察
船井総研の人材ビジネスに対する考えを公開します。

最近、事業所の出店をキーワードとしたご相談をいただくことが増えています。関西の会社様が東京に拠点を持つ。福島の会社様が仙台に事業所を持つ。そういった流れは人材ビジネスにとってごく自然な流れではないでしょうか。もちろん、工場は郊外に偏在していますし、福祉系の施設は比較的全国に分布しています。ですが、人材ビジネスの基本である「人のいる場所で闘う。」ということに変わりはないと思います。

そこで、今回は船井流マーケティングの観点から、人材ビジネスの事業拡大について考えてみたいと思います。

1.【船井流マーケティングの原理原則】

船井総研は元来、小売業に強いコンサルティング会社です。その中で蓄積したノウハウを船井流マーケティング手法として体系化しています。まずは、その原理原則についてみていきたいと思います。

船井総研では、基本的にニッチ領域でトップになることを目指します。(もちろんビジネス環境により例外もあります。)そして、差別化とその切り口を以下のように定義しています。

 

図1:差別化とその切り口

これは小売業を前提としています。人材ビジネスでの”客”について考えてみます。

お金を払うという点で、お客様は利用する企業です。しかし、一方で求職者も大事なお客様であることには変わりありません。

(悪い言い方をすれば仕入れにあたる訳ですが)

その二つの視点の中で、特に求職者目線でそれぞれを簡単に考えてみます。

1. 立地

派遣における登録、人材紹介における面談にとって、これは重要になります。事業所が少し駅から離れていたとしても、求職者は減らないのかもしれませんが、企業ブランド力が無い状況においては、駅のすぐそばに事務所を構えることは、信頼という点でだいぶ印象が変わります。
都道府県単位でみれば、これはさらに重要な要素です。人材ビジネスのマーケットは極端に偏在しています。競合が多いのは確かですが、少なくとも政令指定都市レベルで展開するのが望ましく、地方の会社様は売上を伸ばそうと思ったらまず進出を考えたい項目になります。
※これは余談になりますが、現代における立地とはインターネット上で求職者の目に留まる位置、SEO順位のことを指した方が適切かもしれません。

2. 売り場面積

人材ビジネスにおいては、オフィスの広さとして考えます。求職者との面談スペースの広さが満足度に与える影響は限定的です。面談という点だけで考えれば、椅子が二つ並べられて、かつ圧迫感がない程度の広さ。2坪もあれば十分です。

3. ストアロイヤリティー

いわゆるブランド力です。私が思うに人材ビジネスは「機会ビジネス」の性格が強いです。立地により売上が左右される「立地ビジネス」、ホテルや航空機のようにその稼働率が利益を決める「稼働率ビジネス」とは違い、自社が持っている求人案件と仕事を探している求職者が適切なタイミングで出会うことが重要です。ですが一方で、長い目で見れば、対応の手厚さなどで信頼感を得ることで、ロイヤリティーが醸成されていくことも十分考えられます。特に口コミ等がインターネットで広がりやすい現代においては、対応力は大切な要素になります。
テクニック論としてブランド力を高める方法があります。それは領域を徹底的に”絞る”こと。ただし、マーケットが十分にある場合に限ります。私のお手伝いをしている会社で「物流業界の管理職層専門」の人材紹介事業を立ち上げているのですが、立上げ直後から「日本唯一の物流業界専門」の事業になります。enミドルの転職という媒体を利用しているのですが、スカウトメールの返信率や、案件への応募数は同媒体平均と比べても突出して高くなりました。

4. 商品力

求職者にとっては求人案件が商品になります。一方この項目を企業というお客様から見た場合、人材ビジネスは差別化が難しい業界です。もちろん、特定の業界に特化することで、見た目の差別化は可能ですが、本質的にサービス内容は変わりません。どちらかといえばアフターサービスの質の方が影響はあります。

5. 販促力

求職者を集める力です。これに関しては今後、ますますインターネットが主戦場になるでしょう。前回の研究会でご講演いただいたアクシス株式会社様のように、「サイバーエージェント 転職」のSEOを狙っていくマーケティングや、看護師の転職支援に強いエスエムエス様のように、情報系サイトを運営し、転職を考える前段階から看護師を囲い込む取り組みなどは非常に参考になります。この部分の取り組みの遅れは後々に非常に大きなハンデになるでしょう。

6. 接客力

すでにふれたように、対応の手厚さは信頼につながるので必須項目と言えます。人材紹介においては、これこそが大手との差別化につながります。最近耳にした情報ですが、転職市場においては35~45歳くらいのミドル層マーケットが伸びているようです。この年齢層の方の転職支援では、対応の手厚さとマッチング精度の高さが必要になってくるのではないでしょうか。大手に多いのですが、売上を求めて人材紹介事業のKPIである面接設定数だけを増やしていく「クルクル系」人材紹介は入り込めない領域です。

7. 価格

人材派遣の場合は、利幅が大きいとは言えないので、「同業他社に比べて料金が低い」という状況は作りにくいでしょう。一方、人材紹介のフィーの相場は20~30%で、海外の水準と比べても少し高いと感じます。今後は、利用が活発になり市場は広がる反面、少し単価は下がるのではないでしょうか。いずれにせよ、差別化の要因とはなりにくいと言えます。

8. 固定客化

人材ビジネスにおいて、同じ人が何度も来るということはあまり望ましい状態とは言えません。しかし、”ファン”になってもらうという点では大切な要素です。

少し長くなりましたが、結論は極めてシンプルです。差別化をしづらい中、人材ビジネスで中小企業が成長するためには、「政令指定都市レベルの大きなマーケットで、領域を絞り込み、対応力の質で差別化を図る」ことがポイントです。(もちろん、職種によっては地方でも成り立つマーケットはあります。)逆に言えば、「市場の大きな地域への進出、力相応に勝てる領域の模索、社員教育」が中長期的な視点からは必要ということです。(もちろんその上で、集客力が大切になるのは大前提です。)

少し概念的な話が多くなったので、今度は具体的な話に移りたいと思います。

2.【人材ビジネスの事業拡大とコスト構造】

実際問題、東京で事業所を開設しているとすると、どのようなコストがかかるのでしょうか。

一般的にオフィスに必要な広さは従業員一人当たり3~5坪と言われています。そこに、2坪の面談スペースを3つ加えることを想定します。ちなみに、ビルの立地にもよりますが、東京23区のオフィスの坪単価は1.5~2万円のようです。人員体制は営業4名、事務員2名で計6名。月給は一人当たり25万円、諸々込みで一人当たりの人件費は29万円前後になります。そこに派遣スタッフの募集広告の費用がかかります。少し多めに見積もっても30万円程度でしょうか。

まとめると
・ オフィス賃料…(4坪×従業員6名+面談スペース2坪×3)×1.8万円/坪=54万円
・ 人件費…29万円×従業員6名=174万円
・ 募集広告費…30万円

合計で258万円/月の固定費がかかります。ぴったりのオフィスが見つかるかという点や諸々の経費込みで300万円のコストが毎月出るとします。

派遣単価は2,000円、マージン率は25%だとすると、派遣スタッフが述べ6,000時間稼働したら、損益分岐点に達することが分かります。派遣スタッフが一人一日8時間、月に20日稼働すると想定すると37.5人のスタッフが稼働する計算になります。感覚値ですが派遣コーディネーターが一人当たり40~50名のスタッフを抱えると忙しくなってくるイメージです。4名のコーディネーターにとっては、まだまだ、仕事が足りないという状況ですね。ちなみに、この時点ではまだ赤字です。
・ 300万円÷(2,000円/時×25%)=6,000時間
・ 6,000÷(8時間×20日間)=37.5人

派遣スタッフの派遣スタッフ37.5名分の社会保険の負担も考えると、実際には86名のスタッフ稼働が必要になります。約90名稼働でようやく安定というイメージでしょうか。恐らく派遣先は70~80ほどでしょう。ここまで考えると4名のコーディネーターは1人当たり22.5名のスタッフを抱えることになるので業務量もそこそこになります。
ちなみに90名の稼働を生み出すために必要な広告費はいくらでしょうか。応募の10名に一人が就業につながると考えた場合、900名を集める必要があります。これも感覚値ですが、事務派遣の場合は一応募あたり5,000円で考えて良いと思います。そうなると、90名の稼働を生むための広告費は少なくとも450万円かかることになります。仮に毎月30万円の広告をかけ、毎月稼働スタッフを6名ずつ増やしていく、「のんびりプラン」だと、約15ヶ月間は赤字状態になってしまいます。

図2:人材派遣の損益分岐点

事業開始直後には、案件開拓スピードと広告費用の準備が大切なことが見えるかと思います。例えば大阪から東京に進出する場合は、既存派遣先に営業をかけ、東京の案件をもらうことが効果的になります。

80件の開拓をした上で、90名を稼働させるとようやく事業が安定するという構造は、人材派遣業界でM&Aが盛んな理由の一つでしょう。また、このグラフを眺めているとコーディネーターなどの残業も決して軽く見られないことが分かります。

※都道府県別の労働者派遣事業報告書の集計から計算すると、一派派遣の場合、職種などの違いを抜きにすると、東京では1事業所あたり80名の派遣スタッフが就業している計算になります。ここまでは、分かりやすさを優先して数字を見てきましたが、健全に事業が成り立っているとすると、単価とマージン率はもう少し高めになっているか、もっとスリムな人員体制で営んでいるはずですね。

図3:都道府県別の派遣社員数集計(報告年度:2014年6月1日)

ちなみに、人材紹介事業について触れると、同じ条件では年収500万円の人材を3名決定させると黒字になります。これはこれで、個人の独立が多い要因ともなります。大手になるほど分業化を進めていくのは、業務の効率性アップと人材の定着という両方の意味があるのではないでしょうか。

3.【売上アップのための経済性】

図2を見てもわかるとおり、人材派遣は売上に対して固定費が少ないビジネスと言えます。まずは、暇にならないほどの業務を生むこと(商圏内でのシェアを確実にアップしていくこと)。その上で、分業化などの業務の効率性や生産性アップが重視されていきます。

船井流には売上アップの順序もノウハウとして存在します。
1. 商圏内でのシェアアップ
2. 商圏人口の拡大
3. 取扱商品数の拡大
通常はこの順序で売り上げを伸ばしていきます。ですがマーケットが偏在する人材ビジネスにおいて、2番の商圏人口の拡大については、効果は限定的です。(地方からよりマーケットの大きな都市圏という流れを除いて)さらに、先ほどは触れていませんでしたが、事業所の開設には初期コストとして、システムへの投資や備品の購入など、まだまだ初期コストはあります。

大きいマーケットで闘っているという前提であれば、ある程度売上が頭打ちになったところで3番を先に考えるべきです。情報共有のスキームや、共有システムなどを生かして、別の業界の派遣・紹介に足を伸ばすのが現実的です。

私も専門性の高い人材紹介の立上げを手伝うこともありますが、人材紹介に必要なのは業界知識ではなく、ヒアリング能力だと痛感します。先ほども例に挙げましたが、物流専門の人材紹介といっても、企業から出てくる職種すべてに詳しいことは稀です。それであれば、事業が安定するまでに培ったノウハウを生かして、専門性の高い別業界への参入を検討すべきです。

実際、人材紹介の業績をグングン伸ばしているという株式会社クイック様も、対象としている領域は「製薬」「建設」「自動車」「看護」「化粧品」とバラバラです。

今後、地方ではより少子高齢化が進みます。市場自体が縮小し、シェアアップも望めず、他職種への進出も難しい。そんな時には、素直に市場の大きいマーケットへ移行すべきです。市場の大きいマーケットで闘っているのであれば、積極的に他職種への展開を考えてみてはいかがでしょうか。

4.【補足:人材ビジネスのマーケットサイズ】

船井総研では、上記のようにシェアを定義しています。例えば、派遣業界大手のリクルートはリクルートスタッフィングが売上約1,700億円※、スタッフサービスが約2,000億円※です。人材派遣の市場規模は4兆円前後といわれているので、それでも同行が他社に影響を与えるほどのシェア「影響シェア」11%前後です。この数字は、これ!といった差別化要因が作りにくいことを象徴していると思います。

人材紹介の場合、リクルートエージェントの売上が約400億円※で人材紹介の市場規模は2,000億円前後です。トップと呼べる存在であることが分かります。人材紹介の市場規模は小さく見えるかもしれませんが、派遣と比べると営業利益率は8倍くらい良い業界です。そう考えると、派遣会社が人材紹介に参入する時には、1.6兆円くらいの市場規模に映るのではないでしょうか。(※IR情報より)

5.【原理原則に立ち返って考えましょう】

長くなりましたが、今回はとても基本的なことを書きました。
昨年、EUの離脱が決まった際には、とてもヒヤリとしました。というのも7~9年を周期に景気は変動するとされており、2008年のリーマンショックからちょうど8年が経過しているからです。そんな時こそ、原理原則に立ち返って考えることが必要だと思います。

また、自分のビジネスほど、客観的に見る機会も少ないはずです。

職種、業界、地域により今までの書いてきた計算も状況も様々だと思います。
ですが、ビジネスを俯瞰する手法に変わりはないと思うので、何かヒントになれば幸いです。

このような情報を聞くことができ、全国の人材ビジネスに携わる経営者様と情報交換ができるのは
船井総研の人材ビジネス経営研究会だけです。

初回お申込みは無料ですので、ぜひご参加ください。

初回お試し参加無料!
詳細
は下記よりご覧ください。

https://lpsec.funaisoken.co.jp/study/jinzai-business/100566/

人材ビジネス経営レポート 2016.6号より再掲(一部修正)

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