働き方改革の概要と問題点を徹底解説!Part2【女性管理職・同一労働同一賃金】

2017年3月現在における「働き方改革」の概要と問題点を徹底解説します。
本記事では、女性の管理職が低い問題や女性の貧困、また同一労働同一賃金について解説しています。

働き方改革とは(おさらい)

2017年3月現在、安倍政権が掲げる政策のひとつが働き方改革です。
働き方改革とは、日本の労働市場の問題に密接に関わってくる内容になります。

現状の日本が抱える労働市場の顕在的な問題は大きく分けて以下の3つです。
・少子高齢化による労働人口の減少
・長時間労働
・働き方の多様性への対応

こういった問題に対して、働き方改革は以下のようにして対策します。
同一労働同一賃金(非正規雇用の処遇改善)
賃金の引き上げと労働生産性の向上
長時間労働の是正(時間外労働の規制)
・高齢者の就業促進
・多様性に対応した働き方の確立や社会保障の整備
・転職・再就職支援、人材育成、格差是正のための教育訓練

世間一般では、「女性の地位向上」「女性が輝ける社会の実現」と謳われていますが、働き方改革の本来の目的は、こういった国家経済の切実な問題が根幹にあるといってよいでしょう。

以上が、政府が主導して進める働き方改革の概要です。
本記事では、この働き方改革が直面する個々の課題に注目し、民間レベルでどういった取り組みが必要なのか、だれが先んじて行うべきなのかを考察・解説していきます。

※本記事は「働き方改革の概要と問題点を徹底解説!Part1【少子高齢化・長時間労働】」の続きの記事になります。

女性の労働環境の実情

現代日本の労働環境の実情として、以下の問題があげられます。
女性管理職の比率が低い
非正規雇用の女性労働者が多い

一体、これらの問題の背景はどのようなものなのでしょうか。

なぜ女性管理職の比率が低いのか
2013年の総務省の調査によると、管理的職業従事者に占める女性の割合は11.2%であり、諸外国と比べてかなり低い水準となっています。
(参考:総務省「労働力調査(基本集計)」(平成24年平均))
また、直近の調査では以下のような結果が出ています。

日本の中堅企業における「経営幹部の女性比率」は7%で前回2016年調査と変わらず、調査対象国中唯一の1桁の数字となった。また、2004年の調査開始以降、日本は10回連続での最下位となった。調査を開始した2004年の女性比率が今回とほぼ同じ8%であることから、日本の中堅企業においては女性の経営参加の点でほとんど改善が進んでおらず、世界から大きく遅れをとっていることが明らかになった。
さらに経営幹部に一人も女性がいない日本の中堅企業は67%に達し、前回の調査結果(73%)と比べると改善は見られるものの、全調査対象国の中で最も多い結果となった。

(引用:3月8日「国際女性デー」に先立ち調査結果を発表、日本の中堅企業「経営幹部の女性比率」36カ国中最下位│共同通信PRワイヤー(2017年3月7日))

このように、女性管理職の比率は諸外国と比較してもかなり低く、早急な改善が望まれます。

ですが、一体なぜ日本では女性管理職の比率が低いのでしょうか。
内閣府男女共同参画局の調査では、以下のようになっています。

女性の労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合)は,結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し,育児が落ち着いた時期に再び上昇するという,いわゆるM字カーブを描くことが知られており,近年,M字の谷の部分が浅くなってきている
(引用:第2節 女性の労働力率(M字カーブ)の形状の背景 | 内閣府男女共同参画局)

これまでは、結婚・出産期にあたる年代(20代後半~30代)にかけて女性労働者は職を離れ、ある程度子供が成長すると再び労働市場に復帰する、という傾向がありました。
その傾向が近年では解消されつつある(=女性の就業率が向上した)、というのがこの調査結果の概要です。

しかし、別の調査では以下のような結果も出ています。

(引用:内閣府男女共同参画局「女性のライフプランニング支援に関する調査」(平成19年))

「ある程度子供が成長してから労働市場に復帰する」とはいっても、正社員として復帰するのではなく、パートやアルバイト、次いで契約社員、派遣社員(いわゆる非正規雇用)として働くことのほうが圧倒的に多いことがわかります。

これらの調査をまとめると以下のようになります。
● 女性は出産・育児のために職を離れてしまう(近年は改善傾向)
一出産・育児で職務を継続できない

● ある程度子供が育つと非正規雇用として働きだす
一度職を離れた場合、正社員としての復帰が難しい

一度キャリアを手放してしまうと、そこから先のキャリアを手に入れることはできなくなってしまいます。
今現在で女性管理職になり得る年代は10~20年前に入社した女性でしょうから、近年の改善で女性の就業率が改善したからといって、そういった管理職になり得るキャリアを持つ女性は職から離れてしまっているため、すぐに女性管理職が増えるわけではないのです。

また、改善傾向にあるとはいえ、出産・育児を契機に職を離れてしまったり、あるいはキャリアの維持のために結婚できない、子供を産めないという状況にしてしまっては、働き方改革の意味がありませんから、民間企業の自主的な取り組みでそういった女性たちをサポートしていく必要があるでしょう。

以上のことから女性管理職の比率の低さは、改善の取り組みを続けていれば時間が解決してくれるでしょうから、女性労働者の増加とは当面は切り離して考える必要があるでしょう。

女性の貧困

女性管理職の比率の少なさは一定の解決策が見えていますし、今後の改善の光が見えます。
一方で、非正規雇用の女性に関してはより深刻な問題があります。

総務省統計局の「労働力調査」では、非正規雇用の労働者の男女年齢別の内訳が示されています。

出典(「労働力調査結果」(総務省統計局))

この図で見ても分かるように、女性が占める非正規雇用の割合がかなり大きいことがわかります。また年齢別に見ても、男性に比べて女性の方が働き盛りに非正規雇用として就労していることもわかります。出産・育児で一度キャリアを手放した女性が労働市場に戻るという構図と相関しますね。

しかし、単に非正規雇用だから問題というわけではありません。非正規雇用の労働者(特に派遣社員)は、正規雇用の労働者よりもワークライフバランスがとりやすいなどのメリットが“本来”存在するからです。

一概に、労働時間が短ければそれだけ収入も減ります。
非正規雇用の労働者というのは、「収入の少なさ」というデメリットと引き換えに「自分の時間」を得ているといっても過言ではありません。

ここで浮かび上がる問題というのが、「非正規雇用の労働者の貧困」です。
こう言うと「それは非正規雇用を選んだ人の自己責任ではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
無論、自分の意志でいわゆる「ニート」や「フリーター」として生活している人に対してはその理屈が通用するかもしれませんが、注目すべきなのは「シングルマザー」として働いている女性の貧困なのです。

厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、片方の親と同居する子供の貧困率はなんと50%を超えています。
日本においては、離婚などで親権を得るのは女性というのが社会通念上通常であるので、この子供の貧困は「シングルマザーの貧困」と言い換えてしまっても差し支えないでしょう。

では、実際にはどのくらいの収入を得ているのでしょうか。
こちらも総務省統計局の調査を引用すると(下図)、非正規雇用の女性のうち8割が年収200万円以下であり、100万円以下の割合も5割近くになっています。

一方で、シングルマザーの女性が皆非正規雇用というわけではありません。
正規雇用でシングルマザーの女性も一定数存在するはずです。

しかし、正規雇用の女性であっても年収300万円以下が5割近くを占めており、こちらでも女性の貧困が垣間見えています。

ここまでの話をまとめると、
非正規雇用の女性は収入が少ない
シングルマザーの女性は収入が少ない
正規雇用の女性でも子供がいないか、未婚女性でない限り管理職の道は狭く、収入が増えにくい

ということがわかります。

この問題に対して、働き方改革は次のような解決策を提案しています。

同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、「同じ労働をしている労働者には、正規雇用か非正規雇用か関係なく、同じ賃金を支払う」という概念です。

これについては、「パートタイム労働法」という法律ですでに定められているものでもあります。

1・ 事業主は、職務の内容、退職までの長期的な人材活用の仕組みや運用などが通常の労働者と同一のパートタイム労働者であって、期間の定めのない労働契約を締結している者については、パートタイム労働者であることを理由として、その待遇について、差別的取扱いをしてはならない。
2. 1の期間の定めのない労働契約には、反復更新によって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる有期契約を含むものとする。

※詳しくは、「【2017年最新版】女性の労働問題にまつわる法律をやさしく解説Part3【パートタイム労働法】」をご覧ください

この条文では、「通常の労働者(正社員)と同視すべき短時間(パートタイマー)労働者」に対する差別的取り扱いを禁じています。
「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」とは、以下すべて該当する労働者のことを指します。
職務内容が同じ
人材活用の仕組みや運用などが、全雇用期間を通じて同じ
契約期間が実質的に無期契約(有期契約を繰り返し更新している場合も含む)
このような労働者に対して、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、パートタイマーであることを理由として差別的取扱いをしてはなりません。

この法律によって、非正規雇用の賃金は一見上昇するように見えます。
しかし、企業からしてみると、非正規雇用の賃金を上昇させる=コストの増加であるため、以下のような方策を講じてくる可能性があります。

1 正規雇用の労働と、非正規雇用の労働を区別する

「同一労働同一賃金」が原則ですから、「同一労働」でない労働は「同一賃金」でなくてもよいため、ここを区別することでコストの上昇を抑えます
区別された非正規雇用の賃金は上昇しません

2 従業員数を削減し、残った従業員で従来の仕事をこなす

増えた分のコストを相殺させるために、従業員をカットします。仕事量は変わらない為、従業員一人あたりに求められる生産性は高くなります
カットされた従業員の数だけ、失業者が増加します

3 商品の値上げ

増えたコストを相殺させるために、商品の価格を上昇させます
部分的、あるいは全体的に物価が上昇します

4 正規雇用の賃金を引き下げる

非正規雇用の賃金を上昇させる代わりに(あるいは上昇させないために)従業員の賃金を低下させバランスを取ります
同一労働同一賃金は実現しますが、正社員の待遇に問題が生じます

これらのどれをとっても、あまり良い結果が出なさそうです。
企業として取りやすい方策としては、①正規雇用の労働と、非正規雇用の労働を区別することでしょう。

しかし、政府としては「物価上昇率2%
を達成したいという目的があります。
近年の日本は長年のデフレに悩まされ続けてきましたが、物価を上昇させ、なんとかデフレから脱したいというのが実情です。

同一労働同一賃金では、非正規雇用の賃金を上昇させるのに伴い、物価の上昇も同時に狙ったものであるということができます。

総括

一方で、同一労働同一賃金の施策だけでは以下の問題が生じます。
・物価が上昇して、正社員の賃金は変わらない=実質賃金の低下
・非正規雇用の賃金が上昇して、物価も上昇する=実質賃金は変わらず
⇒結果として実質賃金が低下する=景気が悪化する

このような問題を回避するためには、「①労働者個人の労働生産性をあげて、②より高収益な商品・サービスを開発、提供し、③資本を伸ばす
という良いサイクルを作ることが不可欠です。

では、社員の労働生産性を向上させるためにはどのようにすれば良いのでしょうか。
次の記事では、この問題について解説していきます。
次の記事→「働き方改革の概要と問題点を徹底解説!Part3【労働生産性】

あわせて読みたい

関連する法律については、以下の記事をご覧ください。
「【2017年最新版】女性の労働問題にまつわる法律をやさしく解説Part1【男女雇用機会均等法】」
「女性活躍推進法の概要と今後~1番得をするのは派遣社員?~」

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参考サイト

http://prw.kyodonews.jp/opn/release/201703069581/
3月8日「国際女性デー」に先立ち調査結果を発表、日本の中堅企業「経営幹部の女性比率」36カ国中最下位 | 共同通信PRワイヤー

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc141210.html
総務省|平成26年版 情報通信白書|我が国の労働力人口における課題

http://president.jp/articles/-/21114
もしイオンが「同一労働同一賃金」にしたらどうなる? | プレジデントオンライン | PRESIDENT Online

https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko140320a1.pdf
なぜ「2%」の物価上昇を目指すのか│日本銀行

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